シェルル小説2
続きです。よければどうぞ↓
倒れる数分前のことはうっすらとだが、思い出せた。しかしどうもその直前が引き裂かれてしまった本の1ページのように、無くなってしまっていた。シェゾは小さく息をつく。無いものは無い、と自分に言い聞かせる。しかし、倒れる数分前の記憶にいたルルーの姿がシェゾの心にしこりを残した。どうして彼女が自分の前にいたのか記憶がはっきりとしていない。だから妙に気になって気になって仕方がなかった。
「…何を考えているんだ、俺は」
後ろ髪を引かれるような思いに、シェゾは自分の自己欺瞞を改めて痛感した。本当は気づいているはずなのに、それに自ら鍵をかけて心の奥深くに潜めている己に、後ろめたさを通り越し、むなしささえ感じていた。
分かっていた。自分のことなのだから。奥深くで眠っていても胎動するこの感情、温もりの正体なんてとっくの昔に看破していた。
扉のすきまからひとの温もりを感じさせる光がもれている。きっとそこにルルーはいるのだろう。
「…ルルー」
ほんの少しだけならば、この自分を矛盾の重圧をほどいてもいいだろう。
言わせてくれ。
「愛している、ルルー」
「は?」
そしてまたシェゾは心に鍵をかけ___「何、言ってんのよあなた……」
ふいに背後からかけられた言葉にシェゾは抜けた声を出す。「ほぁ?」
そして背後をゆっくりと、ゆっくりと振り向く。
眼前には、ルルーの端正な顔があった。僅かにほほを紅潮させ、眉を八の字にした面持ちのルルーが。シェゾは衝動的に叫ぶ。ルルーもその叫びにつられて叫ぶ。
「ほぇえええええええあああああああああああああああぁぁぁ!?」
「きぃやあああぁぁぁあああああああああぁああぁぁぁああぁ!???」
気品のあるこの場所には似合わないあられもない両者の叫びが、わんわんと屋敷全体にこだました…。
続く